IWC Ingenieur SL "Jumbo" Quartz Ref.3003
Summary
IWCのインヂュニア SL ジャンボ クォーツ Ref.3003のご紹介です。
インヂュニア(Ingenieur)はドイツ語でエンジニア(技術者)を意味します。その名の通り技術者に向けて作られた時計です。
初代インヂュニア Ref.666は1955年に誕生しました。analog/shift
開発の背景には1950年代の機械工学分野の発展に伴い、高磁場環境で仕事をする人々が急増したことがあります。
CERNや水力発電所、更には原子力発電所で働くエンジニアは、かつてないほど強力な磁場のすぐ側で働くため、その環境に耐えられる時計が必要だったのです。
高い耐磁性に加え、耐衝撃性と防水性を兼ね備えたタフさが最大の特徴でした。
1967年に洗練されたデザインとなった2代目Ref.866を経て、1976年に大きなデザインチェンジが行われます。
それが本モデルのインヂュニアSL "ジャンボ"です。
a collected man
時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタによりブレスレット一体型のスポーティなデザインへと生まれ変わりました。
奇しくもジェンタのデザインしたノーチラス Ref.3700も同じ1976年の登場ですので、歴史的にも重要な時計が2つ生まれた年と言えます。
ジェンタはそれまでにIWCで「ゴルフクラブ」や「ポロクラブ」をデザインしており、それらと合わせてSLラインを形成していました。
1976/77のSLラインカタログ
SLは"Steel Line"を意味し、ロイヤルオークのようなスティール製の高級時計としてのコレクションを予定していました。
実際には目論見通りの成功を収められず、SLラインにはスティール以外の時計が加わりました。
そのため、時代の流れとともにSLは "Sport Line"を意味することが多くなっています。
インヂュニアSL "ジャンボ"には自動巻きのRef.1832、そして今回ご紹介するクォーツモデル Ref.3003が存在します。
また、それぞれにスティール、スティール/14Kゴールドのコンビ、18Kゴールドという3種類のバリエーションが存在しました。
それでは時計の各部分について詳しく見ていきます。
最後にこの時計が何故レアなのか、どれくらい希少性があるものなのかを解説します。
Case
ケースはステンレススティール製。
ジェンタ自身がデザインしたオメガのCラインケースに近いラグに向かってかなりシェイプした形状が特徴的です。
ムーブメントが薄型では無かったため、厚さが12.5mmとこの時代の時計としてはかなり厚みがありますが、それを感じさせないデザインです。
ベゼルには5つのネジ穴がある点もジェンタのデザインしたロイヤルオークとの類似点です。
ケース前面は縦方向のヘアライン仕上げ、ベゼル部分は同心円状のヘアライン仕上げが施されています。
サイドも前面同様のヘアライン仕上げがされており、統一感を感じます。
インヂュニアはその成り立ちから厳密には「ラグジュアリースポーツ」と分類されるかは見解が分かれる部分ですが、ベゼルの段部分がポリッシュ仕上げになっていたりと細かい部分の拘りは確実にその流れを汲んでいると言えるでしょう。
リューズは防水仕様を示す「お魚リューズ」です。ねじ込み式となっています。
裏蓋に関しては外周はポリッシュ仕上げ、内周は同心円状のヘアライン仕上げとなっています。
重さは約155gとヴィンテージウォッチとしてはずっしり感があるモデルです。
ロレックスの現行スポーツモデルは同じくらいの重量ですので、慣れている方は違和感なく着けられると思います。
Size
※モデル腕周り約16.5cm
ケースサイズは40mmと1970年代の時計としては非常に大型です。
"ジャンボ"と言われるのはこのサイズに起因しています。これはロイヤルオークやノーチラスの初代モデルも同様の呼び方をされていますね。
ただ、先述の通りラグに向かって急激にシェイプしているため、数値よりもやや小さく見えるかもしれません。ベゼル径は37mmです。
横から見ると結構ボリュームを感じますね。
ロイヤルオークに比べるとブレスレットの幅もそれなりにあるため、腕周り16cm以下の方はかなり大きく見えると思います。
Bracelet
ケースと一体型のステンレススティール製ブレスレットが付属します。
1つ1つのコマはロレックスのハードブレスレットよりも大きいです。
バックル(クラスプ)はダブルロックとなっており、実用性が重視されたことを伺えます。
クラスプの中板にはIWCの刻印も入っています。
約20.5cmの腕周りまで調整可能です。
Dial
インヂュニアSL ジャンボの文字盤にはいくつか種類があります。
市松模様のブラック、英語圏では"waffle"と言われます。
a collected man
コンビとゴールドモデル向けのシャンパンダイアル。
worldoftime.de
そして、今回ご紹介のヘアライン仕上げのシルバーダイアルです。
ロジウムメッキが施されており、角度を変えて見るとダークグレーのような色合いに変化します。
もう少し詳細に見てみます。12時位置はIWCのアプライドロゴと筆記体のプリント。
6時位置の表記はクォーツモデルのため"INGENIEUR SL QUARTZ"と表記されています。
自動巻きモデルには"INGENIEUR SL"のみの表記となりますので、その部分が異なります。
インデックスは細めの砲弾型、針はペンシルハンドで中に夜光塗料が塗布されています。
いずれもトリチウム夜光で経年変化して濃い色合いになっているというコンディションです。
Movement
ETA 940.111をベースにIWCが精巧に仕上げた機械です。
後継モデルのRef.3303ではムーブメントがCal.2250へと変更され、薄型化がされています。
Rarity
本モデルの紹介の本題に成り得る部分の希少性についてです。
ドイツのKlassik Uhrenというメディアによると、インヂュニアSLの生産数は978本とされています。
そのうち、自動巻きのRef.1832が543本、クォーツのRef.3003が335本、そして両モデルの18Kゴールドバージョンが45本と55本という内訳です。
Ref.1832と3003にどちらにもスティールのみ、スティールと14Kゴールドのコンビが存在し、上記生産数はそれらを合わせた数です。ただ、顧客の要望により自動巻きモデルからクォーツへ、クォーツモデルから自動巻きへとムーブメントを交換することが可能だったという記述があります。
インヂュニアSL ジャンボの販売価格は2,100スイスフラン、米ドルで2,370と当時のレートで40万円以上という高価格でした。
これはIWCの18Kゴールド製ドレスウォッチとほぼ同価格です。ロイヤル オークの3650スイスフランと比べてもかなりの価格だったことが分かります。
現在に当てはめると、ロイヤルオークの約350万円に対して200万円という設定です。
自動巻きモデルの売れ行きが芳しくなかったため一度回収し、ケースをそのまま使ってクォーツモデルを販売したという記述もありました。
これは時代がちょうどクォーツ危機の真っ只中で機械式時計の価値に対する評価が著しく低くなっていたのも理由になると思われます。
そのため、明確に自動巻きが何個、クォーツが何個とは断定が出来ません。
クォーツモデルのカタログリファレンスはRef.3003とされていますが、今回の個体のように実際に時計を見ると裏蓋内側の刻印は1832となっているのは上記の理由からです。
確実に言えるのはインヂュニアSL ジャンボのスティールは多く見積もっても878本以下、少なく見積もるとその半分程度しか販売されなかったということです。
そして現在販売されている数では自動巻きのRef.1832の方が多く、クォーツに関しては見ることが非常に少ないです。
Ref.1832のスティールは350万円ぐらいから、箱保証書が付いていると600万円程度という価格になっていますが、クォーツはそこまでには至っていません。
Conclusion
インヂュニアSL ジャンボはインヂュニアというコレクションにおいて非常に重要な1本であり、ジェラルド・ジェンタの手掛けた時計としても非常に評価の高まっている1本です。
ジェンタが再評価されヴィンテージのノーチラス、ロイヤルオークが高騰したこともあり、インヂュニアに目が向いているというのがここ数年の流れです。
とはいえ、パテックやオーデマ ピゲとIWCでは会社としての時計作りの姿勢が異なることもあり全く同じものして捉えることは出来ないと思います。
勿論コレクションピースとしての価値はあるものの、頑強な造りをしておりクォーツということで日常使いに適したヴィンテージでしょう。
コンディションも非常に良好ですし、何よりも殆どお目に掛かることが無いというのが最大のポイントかと思います。
自動巻きでは無くあえてのクォーツのRef.3003、いかがでしょうか。
商品ページは以下よりご覧頂けます。
出典
Fratello Watches
http://www.moeb.ch/Ingenieur/Ingenieur_e.html
THE IWC INGENIEUR
webChronos